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井上さんの残した言葉

かきつばた

★写真はかきつばた。

★昨日の続きである。座・高円寺で行われた、井上ひさしさんの追悼朗読会の始まる前、
会場に、井上さんが劇作家の卵達に講演していた、テープが流れていた。

★その中で「……と言うように劇作家は奇跡を生み出していく者なんです。ですから、頑張って頑張って粘って粘って書かなければなりません」と言っていた。

★この言葉にわたしは胸を突かれた。

★奇跡を創造するためではなく、現在の私は人のためにお膳立てをしたり、整理をしたり、整頓をしたりだけに追われて日々を暮らしている。

★劇作家の仕事たる方向へ少しも自らを向けたり、準備すらしていない。

★なんと言うことなのか……

★もうひとつ想い出を書かさせてくれ。

★あれは、盛岡で行われた劇作家大会の時の事だ。

★石川啄木にちなんで短歌の市民参加のイベントを私がプロデュースした。ゲストは井上ひさしさんと俵 万智さんで、開演の20分前に会場の玄関で井上さんとすれ違った。

★「後、20分ですのでよろしくお願いします。」とわたし。

★「わかりました。ちよっと何かお腹に入れてきます」

★だが、20分どころか40分過ぎても井上さんは会場に戻って来なかった。

★メインゲストの居ないまま、始めるというわけにもいかず、私は冷や汗をかいて「すみません。今しばらくお待ちください」と溢れかえった観客に言い続けた。

★劇作家がボランティアでやっていたイベントなので、元より人員は足りない。わたしが、探しに行くわけにもいかない。

★開始時間から30分もすぎたろうか、やっとの事井上さんはゆっくりあらわれた。

★そして、入り口の所で私の耳に口を近づけ「御配慮ありがとうございます」と言ったのだ。「御配慮?」私には何の心当たりもなかった。

★もしかしたら、20分あったので「どうぞごゆっくり」と言ったかもしれない。だが、「遅れてもいいですよ井上さん」等と口が裂けても言うはずはない。

★井上さんは多分私の言葉を逆手に取って、勝手に休憩時間を延ばしたのだった。

★それでも、ニコニコとして俵さんと語りだす井上さんは憎めなかった。

★そういう、人柄の人だったのである。

★それにしてもと思う。こんなにも多くの作家や読者や観客から尊敬され、惜しまれ、悲しまれた井上さんがもし生きているうちに此の賛辞と悲しみと賞賛を目の当たりにしたらどんなに嬉しかったことだろう。

★いや、照れ屋だから裸足で会場から逃げ出したかもしれない。

★生前葬のように、人は生きているうちに何をおいても駆けつけ、あなたは素晴らしいと言う事はやはり叶わないのかもしれない。

★亡くなったからこそ、人はその亡き人の為に無理ををしても駆けつけるのか?

★やはり、人生は空しく淋しい。

★わかるかなーベイビー!

★本日は雨ばかり……生活は劇作家には程遠く、やはりお膳立ての雑用で一日が暮れる。


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プロフィール

G.C(グランド・キャノニオン)

Author:G.C(グランド・キャノニオン)
G.Cことグランド・キャニオン・ビリーブ・ミーこと高貴な谷、つまり 高谷信之のこれはブログです。

G.C(ジードットシー)は1972年からNHKラジオドラマを約80本書き、映画、テレビ中学生日記等主にNHkのシナリオを手掛ける。【ラジオドラマ】「枝の上の白色レクホン」では、芸術祭大賞をとり同じく『天主堂』ではギャラクシー賞優秀賞をとる。
また若者たちと劇団ギルドを1999年に立ち上げ、20年続け、37回公演で2018年秋解散した。70代後半に向かい、演劇のプロジェクト、あくなき、小説・演劇・シナリオの挑戦創造に賭けており、また日本放送作家協会の理事は岩間良樹理事長の時代より20年以上続けた。
他に長崎県諫早図書館・壱岐未来座等のシナリオの書き方、演劇の演出講師、指導等もしている。

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