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お前は待っていた。

懐中時計

★そいつは随分と待っていた。おそらく20年近く前に安く買われ、買った日かその翌日に使われて以来見向きもされなかった。

★だが奴はじっと耐え、やがて何時の日か自分が必要になる日を引越しの度に、色々と変る狭い引き出しの中で我慢してきた。

★2008年9月24日、ご主人様が筑波で転倒し、手首を骨折そしてとうとう、奴に出番が回ってきた。

★しかし、既に電池は消耗し針さえも動かなかった。

★ご主人様は左手を骨折したので、左手の腕時計は当分使えなくなり、仕方なくそいつの電池を入れ替え、使う事とした。

★「あ、懐中時計、しゃれてますね」と誰かが言った。「まあな」とご主人様はすかして答えたが、本当はそいつしか使えなかったのである。

★そいつとは、何をかくそう、お前、いやわたし、懐中時計である。

★今日病院へ行って新たに左手のヒビガ見つかったにもかかわらず、ご主人様は又腕時計の復活を試みている。

★しかも、ご主人は安い時計と安いカバンが趣味で、これらを数えれないほどもっている。

★だから、この20数年ぶりの機会にわたしを見直してくれたとしても、何日に1回腕を休めて、私を使ってくれるのかは分らない。

★でも、例えば三つ揃いのスーツを着たときなど、ごくたまに私を使ってくれそうな気がする。

★あのくらいじめじめとした机の中の暮らしはもう飽きた。ベイビーあんたからもわたし懐中時計を使ってくれるように頼んでみてくれよ。

★「懐中時計をしている人って好き!」とか言ってその気にさせておくれよベイビー!




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genre : 日記

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プロフィール

G.C(グランド・キャノニオン)

Author:G.C(グランド・キャノニオン)
G.Cことグランド・キャニオン・ビリーブ・ミーこと高貴な谷、つまり 高谷信之のこれはブログです。

G.C(ジードットシー)は1972年からNHKラジオドラマを約80本書き、映画、テレビ中学生日記等主にNHkのシナリオを手掛ける。【ラジオドラマ】「枝の上の白色レクホン」では、芸術祭大賞をとり同じく『天主堂』ではギャラクシー賞優秀賞をとる。
また若者たちと劇団ギルドを1999年に立ち上げ、20年続け、37回公演で2018年秋解散した。70代後半に向かい、演劇のプロジェクト、あくなき、小説・演劇・シナリオの挑戦創造に賭けており、また日本放送作家協会の理事は岩間良樹理事長の時代より20年以上続けた。
他に長崎県諫早図書館・壱岐未来座等のシナリオの書き方、演劇の演出講師、指導等もしている。

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