私と演劇17

★写真は「蛍よ・・・妖しの海を翔べ」の稽古風景です。
★私と演劇「17 焼けたトタン屋根の上の猫」
★さて、私が預かっていた授業料を受け取りに、すっかり姿の変わったT子が喫茶店の入り口のレジに近づいてきました。
★彼女は「何か預かり物はないか?」とレジの女の人に尋ねているようでした。私は2階席から階段を下りて、T子の処へ行き声を掛けました。彼女がやっと私に気づきました。
★表に、ここ数日一緒に住んでいた男が待っているというので、その男も呼び寄せました。
★男はHという男でT子に言わせると「革命家」という事でした。日本に革命家がいるのか?単に学生運動をやっているだけじゃないかと言いたかったが私は黙っていました。
★すると伏し目がちに卑屈な目をしたHはあやまりもせず「T子さんに今どっちか選んでもらいましょう」とついさっきまで、汚いせまい男の部屋で一緒にいたT子に私かHかを選べというのです。それが彼女の意思を尊重して一番公平な事なのだという風に・・・・
★勝負は見えていました。私の負けは分かっていました。卑怯な男だなと思いました。必ず自分が勝てる処でしか戦いを仕掛けてこない卑劣な男です。後にこの男は小説家になり芥川賞を取り、主に貧しく弱い人々のいかにも味方のようなルポを書いたりしましたが、私は一切彼の書くものを信用していません。
★案の定T子は「この人と一緒に居たいの」と泣きながら言うのです。そして余計な事に「あなたはいい人よ」と付け加えるのです。
★この状況で「いい人」という言葉がどれだけ私を傷つけるのか?この状況で流す涙が、どれほどこちらの心を折れさせるのかという想像力が女の人にはないのでしょうか?いいえ、彼女にはなかったのです。
★「わかった」と言って預かっていた現金封筒の袋を彼女に渡し、私は喫茶店を出ました。
★早稲田のグランド坂に四月の雨が降っていました。高田馬場に歩く私の頬に伝うのが雨なのか、それとも涙なのか、さっぱりわからないわたしでした。
★こうして、たった1年あまりの間に2度の裏切りを受けた私は、彼女との生活を終わらせたのです。以来5年程私は女性を一切信じることが出来ませんでした。女の人のどんな笑顔の裏にも恐ろしい嘘が隠されているように思えて仕方がなかったのです。
★それでも、そうした絶望的状況を救ってくれたのは芝居でした。文字通り、「焼けたトタン屋根の上の猫」のようにひりひりしながらも、なんとか6月の公演に向けて、演出をする私でした。
★その俳優陣の中には有名な当時の与党幹事長の娘や、後に映画監督になるHとか後に有名な俳優になるMなどが居ました。
★芝居事体は難しい大人の世界を見事に描いた舞台になったと思います。当時、エリザベス・テイラーとポールニューマンが同名の映画で主演していた作品の舞台でした。
★そしてまた私は新劇団自由舞台の役者としても舞台に立っていたのです。
★小生21歳の春でした。
★本日これまで。お休みベイビー!また明日。
スポンサーサイト