★写真は「蛍よ・・・妖しの海を翔べ」の舞台写真です。 撮影 向 操
★私と演劇「43 もしくは映画2 相米監督」
★さて、1974年頃だったと思う。八騎人の稽古場に、稽古を観に来たり、時々遊びに来る男がいた。それが、日活の助監督をやっていた相米慎二だった。
★当時日活はあの裕次郎,旭の映画から方向転換して、いわゆるロマンポルノという路線を敷いて作品を作っていた。
低予算でポルノチックな作品を量産していたが、中には後世に残る名作も造られていた。
★ただ、相米という男の印象は私の中で最悪であった。誰に聞いたかは忘れたが、「相米はあの娘とあの娘とも付き合っているらしいですよ」と私に告げる者がいた。その一人は八騎人に出演している女優であり、もう一人は照明の助手をしていた女の子だった。
★「何だ。あいつは何者なんだ!」私が声を荒立てると「なんでも日活の助監督をやってるらしいですよ」との答えが返ってきた。それが相米さんを知るきっかけだった。
★当時私はほとんど酒を飲まなかった。また劇団員の中には飲めないメンバーが多かったったこともあり、もう一つには、ゴールデン街で酒を飲んで喧嘩をしたり、そこでの馴れ合いで仕事につながっていくという関係性が私は好きではなかったというか、ある種そういうことへの嫌悪が自分の中の拒否反応として持っていたからかもしれない。
★ゴールデン街で飲まなければ、どんなにいい芝居をやっても、演劇雑誌には載らず、載らないという事は岸田戯曲賞の候補にもならないという噂が流れていたからである。
★「よーし、それならば俺は一生ゴールデン街に足を踏み込まないぞ」と思っていた。現にどうしても付き合いで橋浦監督と2回程行き、その他後2回程しか、ゴールデン街で酒を飲んだ記憶はこの年までない。そんな演劇人はごくまれで、めずらしいのではないかと思う。
★それはともかく、相米監督とも酒を飲んだ記憶はない。
★そんな印象で始まって8年後、相米監督は「飛んだカップル」でデビューして、あの薬師丸ひろ子の「セーラー服と機関銃」で大ヒットを飛ばし、期待の鬼才監督になっていた。
★当時1982年夏「ションベンライダー」の映画を撮ることになり、その助監督をやっていた、矢野君経由で、その映画に入る前の新人の演技指導をやってほしいとの依頼が来た。そして私が日活の撮影所に行くことになったのである。
★当時の鈴木美智子(河合美智子)はまだ中学生。永瀬正敏も高校を出たばかり、坂上忍も子役の経験はたくさんあったとはいえ、まだ高校生か中学生だった。一週間から十日位の期間、発声やエチュード、気持ちの解放の仕方。歌を歌わせたりした。
★この期間面白かったのは、河合美智子は子供なので、坂上忍はテレビなどでよく知っていた為、初めからかなり行為を持っていた。処があるとき、私はそれぞれに好きな歌を歌わせた。すると、永瀬正敏が持参したテープに合わせて、テンポのいい、ロックのような歌を歌った。その歌は確かにあか抜けて、恰好良かった。
★その歌を聞いたとたん、河合美智子はすっかり、永瀬のファンになってしまい、今度は傍で見ていても分かりすぎるぐらい、坂上を止めて、永瀬にべたべたし出したのである。
★彼女の名誉の為に言っておくが、彼女がそういう男を転々とする女の資質を持っていたのではない。ただ年上のお兄さんにあこがれるような思春期の子にとって、心を変えさせるほど、永瀬の唄は魅力的だったのである。
★どちらかと言えば、九州なまりで、ボソッとして取り柄の無いような少年が、歌ひとつで人を引き付けた。やはり潜在的に永瀬正敏はスターになる要素を持っていたのである。その時私にはそれがわかった。
★さて、相米監督はプロデューサー泣かせで、あまり粘る為に予定がどんどん押していき、フィルムも食い、時間もくい予定していた予算を大幅に食うという監督になっていた。それだけの力量と有無を言わせない存在になっていたのである。
★ある時日活の食堂でプロデューサーと相米監督と食事をしていた。その頃私がラジオドラマを盛んに書いていたのを知っていた監督が言った「ねえ、高谷さん、失敗した原稿用紙を惜しむ作家は居ないよね」「そりゃあそうだよ、原稿用紙を惜しんでいたらいいものは書けないからね」と私。「ほら、映画監督にとってフィルムは作家の原稿用紙と同じなんだよ、それを惜しむ監督なんてろくな作品を撮れないよ」と相米監督は言い切った。
★横に居たプロデューサーが、ご飯を砂を噛むような表情で食べていたのを私は見逃さなかった。
★相米監督は私を出汁に使って、フィルム代がかかりすぎて苦情を言うプロデューサーに当てつけのようにそんな話をしたのだと思う。
★相米監督との話は更に続くがそれは次回に。
★本日は夜7月の小公演の為の打ち合わせをした。1日中冷たい雨が降り真冬に近い気温11度くらいだった。春は来ない。
★本日これまで。おやすみベィビー!また明日。
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